
SHINAGAWA TECHNICAL REPORT 品川技報
No. 68 (2025年) 第68号 (2025年)

目次
- ・巻頭言
- ・製品解説
- ・報文
- ・製品紹介
巻頭言
品川リフラクトリーズグループの競争戦略を支える技術開発
品川リフラクトリーズ株式会社 代表取締役社長
藤原弘之
製品解説
グリーンリフラクトリー
飯田正和, 藤谷信吾,西田茂史,石原英治,飯田貴志
<要約>
本報はグリーンリフラクトリーについて述べたものである。グリーンリフラクトリーとは当社が独自に定義した環境にやさしい耐火物製品のカテゴリーで,社内外で発生する耐火物のリサイクル品および他産業で排出される副産物を合計で20%以上含有する耐火物製品を差す。これらの製品は,リサイクルにあたっての適切な処理と管理,バージン原料の配合調整等によって実現したもので,各製品が持っている特長が維持されている。グリーンリフラクトリーは製品カーボンフットプリント(CFP)が低く,これの拡大によりサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出削減が促進される。この取り組みを推進するため,グリーンリフラクトリーに該当する各種製品,汎用シャモット質れんが,ハイアルミナ質れんが,マグクロれんが,マグスピれんが,MgO-Cれんが,ALTIMAれんが,汎用キャスタブル,タンディッシュ流し込み材,電気炉補修用塩基性吹付材,マッド材を開発,ラインナップに加えている。
報文
新設計マルチホールプラグの攪拌効果と溶損状態に関する計算解析および水モデル実験結果
(Shinagawa Refratários do Brasil Ltda.)
Haysler LIMA, Douglas GALESI, Vladnilson RAMOS,Hamilton GUIMARÄES and Isaque GRANUZZIO
<要約>
製鉄所全体のパフォーマンスは各設備の安定操業の上に成り立っている。転炉では溶鋼成分の均一化に有効な複合吹錬により,スラグ中のT-Feの低減,すなわち鉄の歩留まり向上を図りつつ脱リン反応の促進が可能となる。複合吹錬では炉底に複数の不活性ガス吹込み用羽口れんがを用いる。羽口の操業において,様々な流体力学現象が生じ耐火物の損傷が増大,寿命低下や吹錬不能を誘発する。本研究では溶鋼の撹拌効率を向上させ,かつ,損耗を抑制し複合吹錬の効率向上を可能とする羽口設計について検討した。
ポーラスれんがの気孔構造の評価
古川哲也,石原英治
<要約>
ポーラスれんがの気孔構造は,通気率,耐浸潤性を決定する重要な要素である。これは通常,BET法,水銀圧入法,X線CT等により評価されるが,気孔径が大きく,気孔構造が三次元的に複雑な場合には,X線CTによる評価が適切である。本調査では,通気率の異なるポーラスれんがのX線CT像を撮影し,それぞれの気孔構造について画像解析による評価を行った。その結果,異なる材料間の気孔構造の違いを定量的に示すことができた。
自己修復耐火物 ~究極の微構造強靭化メカニズム~
(Shinagawa Refratários do Brasil Ltda.)
Eric Yoshimitsu SAKO, Heloisa Daltoso ORSOLINI, Bianca Maria Gomes da SILVA,Douglas Fernando GALESI, Deivison Carlos Fontes HESPANHOL and Wiliam ALVES
<要約>
耐火物は,溶融金属を出し入れする混銑車や取鍋のように,稼働サイクル中に温度変化に頻繁にさらされる。このような激しい熱衝撃に対処する最も一般的な手法は,カーボン原料を導入して耐火物の熱伝導率を高め,高温側と低温側の温度勾配を小さくすることである。一方,耐火物中へのカーボン原料の導入は,熱衝撃による損傷に強くなる利点をもたらす反面,熱伝導率が高くなることで,稼働中の熱損失が大きくなるという問題が生じる。本研究では,最も過酷な使用条件に対応できる人工的な微細構造から着想を得て,カーボン原料やその含有量を変化させることなく,自己修復特性を有するAl2O3-SiC-Cれんが(以下ASCれんが)を見いだすことを目的に,革新的な手法を検討した。新たに開発したれんがにおいては,加熱冷却により発生した亀裂の修復に成功し,繰り返し加熱冷却試験後にはさらに丈夫な材料となった。物理的特性や耐酸化性,高温特性,耐食性などの他の特性も良好な結果を示し,実炉試験結果もまた,加熱冷却サイクルにさらされる耐火物の役割を完全に変えることができる,自己修復技術の誕生を示唆している。
超高速加熱装置を用いたモールドパウダーのスラグフィルム抜熱特性評価
栗山智帆,中坊一也,伊藤純哉
<要約>
モールドパウダーは水冷モールド内の溶鋼上に散布される。溶鋼からの加熱により下部が溶融,溶融部が凝固シェルとモールド間に流入しておよそ数百μmから1mm厚みのスラグフィルムを形成してモールド下部から排出される。このスラグフィルムはモールドから冷却を受けた時に部分的に結晶化し,結晶生成量の増減により鋳片からモールドへの伝熱量を調整して,表面割れを抑制する機能がある。したがってスラグフィルムの結晶化および熱伝導を測定することは重要である。スラグフィルムは融体層と結晶層が混在している状態であり,その結晶層の厚みはモールド下部に向かって連続的に増大する。そのため,実験室での再現が難しく,伝熱特性を評価するのは困難であった。そこで,岡山セラミックスセンターで開発された上下2枚のカーボンヒーターを使用する超高速加熱装置を活用し,モールド内において融体層と結晶層が共存するスラグフィルムの伝熱特性を評価する方法を開発した。既知の異なる結晶化特性を有するモールドパウダー2種の疑似スラグフィルムを作成し,超高速加熱装置内で上部カーボンヒーターでのみ片側加熱を行いながら測温した。実験の結果,過去報告の実機結果と大小関係に相関のある測定結果が得られたことから,評価方法としての有効性が確認できた。
セメント産業におけるBestDrying®キャスタブルソリューション
(Shinagawa Refratários do Brasil Ltda.)
Riccardo A. M. MONTUORI, José R. FERNANDES,Daelson U. da SILVA and Vladnilson P. de S. RAMOS
<要約>
耐火キャスタブルは,原料の高速流動,代替燃料の使用によるアルカリ,硫黄,塩素の耐火物組織への浸透,温度変動などの厳しい操業条件に直面しているセメントロータリーキルンの様々な部位で重要な役割を果たしている。更に,このような不定形耐火物の乾燥工程はエネルギーを大量に消費するが,BestDrying®技術により,乾燥時間の短縮によるセメントロータリーキルンの迅速な運転再開が可能で,大幅なエネルギー節約と生産性向上が期待できる。本研究では,セメントロータリーキルン用に開発中のBestDrying®キャスタブルについて,その優れた乾燥性の原因となる物理化学的特性の評価に焦点を当てた実験結果を紹介し,更に,セメントロータリーキルンでの運転条件をシミュレートした試験についても考察し,厳しい産業シナリオにおけるBestDrying®キャスタブルの有効性と耐久性を報告する。
コーティング安定性に優れたセメントロータリーキルン用マグネシア・スピネル質れんが
伊賀棒公一,宮田雄斗
<要約>
セメントロータリーキルン焼成帯において,コーティングの安定はれんがの耐用に直結する重要な要素である。本報告では実際の使用後れんがの観察や,再現試験を通じてコーティング付着メカニズムの検討を行い,浸潤は主に細かい気孔のみを埋める形で進行するという特徴を確認した。また,再現実験からマグネシア原料の違いが液相の浸潤に与える影響は主に粗粒部で見られることも確認され,その知見を活かした新材質ELK-8X-1を開発した。
焼却炉用耐火物の耐食性を評価する新規定量指標の検討
(Gouda Refractories BV and Suez Groupe)
Johannes BOERSMA, Annelies NIEWIJK and Zhenlan GAO
<要約>
有害廃棄物焼却用のロータリーキルンの耐火物ライニングを最適化するために多くのサプライヤーから供給される耐火物の評価と選定を工業的規模で行おうとすると,キルンの運転期間である約23ヶ月という長期間を要する。また,その試験可能数は隔年もしくは年あたり1〜2製品であり,実機での寿命評価は時間がかかりすぎる。一方,実験室でのるつぼ試験で耐火物試料へのスラグの影響を評価するのは迅速だが,従来から行われていたスラグ浸潤領域の目視判断は同じような材質の材料をテストするときは判別が困難で,ときにはその試験結果が誤解を招くこともある。そこで本研究では,10種類の市販アルミナ-クロミアれんがを対象に,るつぼ試験後サンプルの化学組成をSEMおよびEDSを用いて定量分析し,そこで得られたデータから算出した“侵食比”という無次元数で表される定量的な評価基準を用いて上記対象材の耐食性を評価した。この指標と対象材中のクロミア含有量との間には良い相関があることが確認できた。更にこの基準によって得られた定量的な評価結果は実機試験結果とも一致した。
耐火物研究におけるCAEの活用
西尾奏恵,中坊一也,小宅民淳
<要約>
様々な分野の研究開発で使用されているCAE(FEM,CFD)解析は,耐火物業界でも使用されている。本報では,当社が導入したFEM解析ソフト(MSC社Marc)を用いて,取鍋の伝熱解析と拘束加熱下での熱応力解析を行った例と,CFDソフト(MSC社 scFLOW)を用いて連続鋳造のモールド内溶鋼流動とタンディッシュ内の介在物挙動の解析を行った例を報告する。伝熱計算ではカーボンニュートラルやSDGsの取り組みに役立ち,熱応力解析は損傷要因の推定を行い改善の方向性を知ることに繋がる。溶鋼流動解析や介在物挙動解析では流れや動きを可視化して顧客製品品質の向上に繋がる。今後もCAE解析を積極的に活用し耐火物の更なる発展に貢献したい。
製品紹介
LTC-FLの紹介
(イソライト工業株式会社)
青山知弘,上道健太郎,鈴木秀尚
<要約>
マイクロポーラス系断熱材は,高い断熱性能から省エネルギー,CO2排出削減の効果が大きいため,今後益々需要が高まると予想する。当社では従来よりLTCシリーズとしてラインナップしているが,本報では可撓性を有するLTC-FLについて紹介する。
API鋼種向けの塩基性SVプレート“SVR-FB9”
馬場浩樹,犬飼恵輔,濱本直秀,新妻宏泰
<要約>
溶損鋼種(API鋼)用の取鍋プレートは損傷の大きい部位(孔周囲と摺動範囲)にCa成分に対して耐食性の高いZrO2材質を配材したZrO2材質アセンブリ型プレートが適用されている。しかし,このアセンブリ型プレートは焼き付きや酸素洗浄による損傷に加えて,アセンブリ型プレート特有の現象であるZrO2材質部の脱落が起こり易いという問題がある。今回開発した塩基性SVプレート“SVR-FB9”はカーボンを含有した塩基性プレートで,焼き付き損傷が抑制され,酸素洗浄にも強い材質である。また,従来材より強度を付与したことで孔径の大きな大型形状プレートへの適用が可能で,アセンブリを必要としない一体構造のAPI鋼種向けSVプレートである。この開発したSVプレートは,突発な鋳造計画変更に対してもフレキシブルに対応でき一般鋼用との併用に期待が持てる。
乾燥性と解体性に優れたTDコーティング材の開発
小松原清行,東川夏海,山田隆太
<要約>
TDコーティング材は,内張材表面に塗布された後に急昇熱されて使用される。そのため,優れた乾燥性が求められる。そこで,繊維多量添加技術を確立することで約40%の低熱伝導性を実現し,乾燥性と解体性を両立したTDコーティング材を開発した。
加熱炉スキッドパイプ用高耐用こて塗り補修材“CCT-A620T”
塚田 凌,籠 貴大,小森 繁
<要約>
膨潤性に優れた粘土を採用することで,コロイダルシリカを適用した高耐用こて塗り補修材を開発した。従来のセメント品と同様に施工でき,亀裂や剥離損傷の軽減による耐火物使用量の削減が可能である。